月と、チャットと、たまにブログ。

主にチャットの話をすると思います。

もう一つの日常 1 【改変修正アリ】

辛味噌さんが有志で執筆し直してくれたので無断転載します^^

2が出るかは定かではありません。

修正前【http://moonandsixchat.hatenablog.jp/entry/2013/12/22/234650

いつものかったるい授業を終えた放課後。鍵の管理を任され、1人だけ残された教室の中でふと考える。僕達の住んでいる世界というのは、僕達が生きているこの現実だけなのだろうか。特に正解があるわけでもないくだらない二択問題。扉の鍵をかけながら、我ながらどうでもいいことを考えているなと自嘲する。ちなみに僕の答えはNOだ。 周りの奴等は皆部活動に勤しんでいるが、そんな面倒くさいことを僕がする訳もなく、鍵を返して今から帰るところである。玄関付近にある時計を見ると時刻は4時過ぎの夕方。空はまだ青いが、少しずつ橙が混じった色になっている。下駄箱から靴を取り出し、履き替えると、登下校に使っている自転車の置いてある駐輪場へと向う。鞄から鍵を取り出し、ロックを解除した自転車に気怠く溜息を吐きながら乗ると、ペダルを踏んで漕ぎ出した。家路を急ぐ中で、どうでもいいことを自分語りする癖をどうにかしたいと考えていた。最近読んだライトノベルに影響されているのだろう。決して中二病とかいう痛いものではないと信じたい…違うよな? 改めて自己紹介をしよう。僕の名前は「槻野 健(つきの たける)」、偏差値そこそこの高校に通う2年生だ。先程も言った通り、最近は自分語りをする癖が付いて困っている。そして今でも二択問題の答えについて考え続けている残念な状態。どうせ誰も聞きやしないのだが、とりあえず自答しておくとする。 回答がNOなのは、僕にはそれらしき場所が存在するからだ。僕にとってのもうひとつの世界──正直世界と呼ぶ程大層なものではないのかもしれないが──とはインターネット上の掲示板のことを指す。人によっては現実世界と電子世界は紙一重ではないのだろうか。むしろ後者が本当の世界だと思う人もいることだろう…いわば現実逃避なのだが。何もかもが主観で語っているものなので、反論やらなんやらされまくりそうな答えかもしれないが、考えているのは自分一人だから責められようがない。明確な正解はないので、この答えが正解ということにしておこう。 頭の中で一通り問答を繰り返し終えると、丁度自宅へと着いていた。自転車の鍵をかけると、鍵を右手に握り締め、左手で玄関の扉を開ける。揃えるのも面倒なので靴を脱ぎ捨てながら、帰りの挨拶もろくにせず自室へと向かおうとする。しかし、反抗期みたいな帰宅の仕方だな、とぼんやり思い、軽く「ただいま」とだけ言ってから向かう。返事は聞こえたが無視した。そうしてようやく自室へ辿り着くと、鞄を扉付近に起き、ベッドに座りながらスマートフォンを弄り始める。ブラウザのブックマーク欄から適当なサイトを選択し、僕は別の世界へと足を踏み入れる。最近はこれが日課だ。…言ってしまえば現実逃避でしかないのだが。 この世界の僕には、「ムーン」という肩書きが存在する。勝手に名乗っているだけなので、検索すれば同じ名前の人も数え切れないほどいるだろう。名前の由来は苗字をもじっただけの簡単な物だ。最も、この名前で呼ぶ人はそんなにいないのだけれど…。 さて入ったのは良いのだが、ここでも僕には悩みがある。最近、妄想が激しくなってきたのか、電脳世界の情景が映し出されるようになってしまったのだ。今見ている景色は都会の大通りのような場所。車やら人やらが、僕のことを気にも留めず、目の前を通過していく。もはやここまで来ると中二病とかそういう次元ではなく、過度の妄想癖のある痛い人だ。どちらにせよ痛い人であることに変わりはないのだが…。自分のこれからが心配になりつつあるものの、足は自然に掲示板の方へと向かった。映像が映し出される。何か夢を見ている感覚だ。僕は今細い裏路地を歩いている。この先が目的地なのだが、何故こんなところにあるのだろうか…周りは怪しい建物だらけだというのに。僕の願望の表れなのか? どうでもいいことを考えていると目的地に到着。少し古いが、小洒落たバーのような外観をしている。よく見ると扉の上の方には蜘蛛の巣が張っている。どうやら掃除はされていないらしい、誰が掃除をするのだろうか。少し遠慮気味に開けると、ギギギと嫌な音をたてながら戸が動く。フリーホラーゲームにでも使われてそうなぐらいの音だ。相変わらず建て付けの悪さは改善されていないらしい。 管理のずさんさに呆れながら中へと入り、適当な席に座る。内装もバーのような感じである。手入れは殆どされていないのだが。 「どうしたの?」 入る時には気付かなかったが、どうやら先客がいたらしい。少し不機嫌そうな表情が顔に出てしまっていたようで、先客の女性は心配そうな声色で問いかけてくる。僕からしたら聞き馴染んだ声だ。僕は振り向いて、彼女の方を見る。視線の先には、少しばかり幼い外見の女性が心配そうな表情でこちらを見つめていた。 黒井彩月(くろいさつき)さん。ここに訪れる連中では数少ない女性の一人。僕が好きな──あくまでloveではなくlikeの方だが──人でもある。いつ見ても幼さが抜けない外見が可愛らしい為、つい見つめてしまっていた。数秒の沈黙の後、じっと見られていることに不信感を抱いたのか、黒井さんはこちらをジト目で見つめ返してくる。そういえば心配してくれていたのに返答もしていないという自分の過ちに気付いたので、相槌を返しておくことにする。 「いえ、何もないですよ。気遣い有難うございます」 苦笑を浮かべながら答える。実際何もないので間違ってはいない。それに、普段目立っていない奴が急に目立とうとすると、相手側は不快だろう。僕はそこまで騒ぐタイプではないのだ。こちらとしても「罪悪感という名の十字架」を担ぐのは勘弁願いたい。十字架を担ぐのはイエスぐらいにしてもらいたいものだ。あくまで扉の開く音の不協和音さに苛立ちを感じただけなので、心配されるようなことは何も無い。 そうやって自分自身に言い聞かせていると、扉がまた不愉快な音を立てて開く。いい加減全自動にしてもらいたいし、内装も外装も手入れしてもらいたいものだ。この中は若干埃っぽい。 「こんにちはー。誰かいますか?」 今入ってきたのは氷室悠人(ひむろゆうと)さんだ。ここに来てる中でも相当な古参らしい。 「こんにちは、氷室さん」 「お、槻野さん…じゃなくてムーンさんか」 僕がそう名乗っているのを思い出したらしく、呼び方を改めてくれた。別に気にしてないんだけどね。 「こんちゃー、氷室久しぶりだねー」 「お前がいつも来てるからそう感じるだけで、俺は一昨日も来てるからな?」 「あれ?そうだったっけ?」 僕からの主観だが、この二人は仲が良い気がする。一緒に話しているのをよく見かけるし。罵りあってることも多い気はするが。 別に僕等はここに来ても何かをする訳では無い。ただ談笑するだけの場だ。それだけなのだが、それが案外楽しかったりする訳で。こんな感じにもうひとつの世界をそれなりに満喫している。満喫した分だけ、現実に戻ると死にたくなるのだけはどうにかしたいが。 しかし、何故黒井さんは僕の事を怪訝そうな目付きで睨んでいるんだろうか…と思った所でその理由に気付く。いつの間にか独り言を小声でぶつぶつ言ってしまっていたらしい。そりゃそんな目で見つめたくもなるだろう…。僕は二人の会話に参加するわけでもなく、開いていた口を閉じると、心の中で「すみません」と謝った。